「別れ花」とは、通夜や告別式の最後に、参列者や近親者が祭壇を飾っていた生花を一輪ずつ手向け、故人の棺に納める儀式を指す。これは故人との最後の対面において「美しい花に包まれて旅立ってほしい」という願いを込めた行為であり、弔意を直接的に表現する最終段階の営みである。葬儀の場において、遺族や参列者が自ら花を棺に納めることで、死を実感し、故人との別れを受け止める心理的な区切りにもなる。
この慣習の背景には、仏教的な花の象徴性が存在する。仏教において花は「無常」を体現する存在である。どれほど美しく咲いてもやがて散りゆく花は、生命のはかなさと死の必然を示す。同時に、花の香りや彩りは浄土を象徴し、故人が清らかな世界へ導かれることを願う意味も込められている。そのため、別れ花は「現世からの別離」と「来世への導き」をつなぐ象徴的儀式といえる。
別れ花と葬儀における花の意味
葬儀や法要で用いられる花には一定の作法がある。葬儀では菊や白い百合、カーネーションなど、落ち着いた色合いで清浄を象徴する花が一般的に選ばれる。菊は特に日本で「葬送の花」として定着しており、長寿や高貴さの象徴でもある。百合は純潔を表し、故人の清らかさを際立たせる意味を持つ。一方で、赤い花や棘のある花は、死を悼む場にそぐわないとして避けられることが多い。
法要では、四十九日や一周忌など、故人の魂が冥途から浄土へ導かれる節目に合わせて花が供えられる。ここでは白一色に限らず、菊や小菊を中心に淡い色を取り入れる場合もあり、「故人を偲びながらも遺族が生活を前に進める」意味を象徴する。花は単なる装飾品ではなく、供養の一部として死者と生者をつなぐ役割を果たしてきた。
このように、別れ花をはじめ葬儀・法要での花の用い方は、単に美的な演出ではなく、日本人の死生観と仏教的思想に深く根ざした文化的行為である。花は無常を示すとともに、故人の旅立ちを荘厳に彩り、遺族にとっての癒しと区切りを与える存在として、現代の葬送文化においても欠かせない役割を担い続けている。