日本の葬送において、火葬後に行われる「骨上げ」は極めて重要な儀式である。遺族や近親者が火葬場で遺骨を拾い、骨壺に納めるこの行為は、単なる収骨の作業ではなく、故人を丁重に次の世界へ送り出すための宗教的・文化的意味を持つ。特に特徴的なのが「渡し箸」と呼ばれる作法で、二人の参列者が一対の箸で同じ骨を挟み、骨壺に収める形をとる。これは日常生活においては禁忌とされる動作であり、葬儀においてのみ特別に行われる。
骨壺に遺骨を納める儀式と渡し箸の文化的背景
この作法の背景には仏教的思想が深く関わっている。火葬後の骨は、肉体から離れた清浄な存在であり、故人の魂の依り代とみなされる。渡し箸によって複数人で一つの骨を扱うことは、故人を家族や共同体全体で見送り、来世へ導く象徴的な行為であると解釈できる。日常で禁じられる動作をあえて行うことで、死という非日常を強調し、生者と死者の境界を意識させる効果もある。
骨壺への納骨の順序にも意味がある。地方や宗派によって違いはあるが、一般的には足から順に収め、最後に喉仏を入れることが多い。これは「故人が歩いて成仏できるように」との願いや、「喉仏」を釈迦の坐像に似た形に見立てて尊重する信仰に基づく。こうした作法は、故人の尊厳を守り、生者に死を受容させる宗教的な心理的支えとなってきた。
この儀式の歴史をたどると、明治期に火葬が全国的に普及したことが転機となる。江戸以前は土葬が主流であり、納骨の所作そのものが存在しなかった。火葬が一般化するにつれ、収骨の手順や作法が各地で整えられ、現在のような「渡し箸」や納骨の儀礼が確立したのである。つまり骨壺に骨を納める儀式は、日本の近代化とともに形づくられた比較的新しい伝統でありながら、仏教的世界観や死生観を色濃く反映したものといえる。
骨壺に骨を納める儀式と渡し箸の所作は、単に遺骨を扱う作業ではなく、死者を共同体で送り出し、生者が死を受け入れるための文化的・宗教的営みである。その背景には、日本人の死生観、共同体意識、仏教的な思想が脈々と息づいているのである。